【小説・考察】ソードアートオンライン1巻の構成を考察してみた① キャラの役割+主人公について

 願わくは、皆様の創作活動の一助となりますように。

 

 小説考察、第二回目はソードアートオンラインです。

 本編だけで現在26巻。その他、派生系のガンゲイルも含めるとたくさん。

 ゲームの中に取り込まれた系作品では、ログホライズンやアリアデイルの大地にて等、先駆者(たぶん)もありますが、トップをひた走る作品といっても過言ではないでしょう。

 私はアニメを見て原作を読んだクチですが、読後の衝撃はいまだに忘れられません。

 以下、ネタバレ含みます。ネタバレが嫌いな方はそのままウィンドウを閉じてください。

 ご理解いただいた方のみ、記事を読み進めていってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか一巻で終わらないだろう・・・という設定にもかかわらず、まさかの一巻完結。正確には完結していないのですが、続編がなくとも問題ない終わり方です太。

 一巻でラスボスを倒す作品は、後にも先にもソードアートオンライン以外ではスレイヤーズしか知りません(私の見識不足もあると思いますが)。

 無駄なシーンを入れていては規定枚数をオーバーしてしまいます。緻密なストーリー構成が不可欠でしょう

 これほど考察がいのある作品はありません。

 

 ということで、前回のストライク・ザ・ブラッド同様、まずは主人公から考察していきたいと思います。

 主な登場人物は以下のとおり(登場順)

 

・キリト:主人公 9p/328p

・クライン:仲間 15p/328p

茅場晶彦:本敵 40p/328p

エギル:仲間 80p/328p

アスナ:ヒロイン 82p/328p

・クラディール:敵 88p/328p

・コーバッツ:モブ 146p/328p

ヒースクリフ:味方➡本敵(茅場晶彦) 170p/328p

・ゴドフリー:モブ 196p/328p

・ニシダ:モブ 238p/328p

 

 主な・・・と言いながらも、ネームドキャラをすべて(たぶん)あげました。

 起承転結で四分割するとして一枠82p。そのギリギリの「起」部分にヒロイン登場。

 仲間のクラインは1巻では・・・というか、本編通じて物語のキーとなるキャラクターが主人公に次ぐ二番目の登場とか。

 そして、80pで出てくるエギルもクライン同様、脇役キャラクターですが、ヒロインよりも登場順番が早い。

 この二名は、おそらくコミック・リリーフ。

 コミック・リリーフとは、まじめな話ばかりで読者を飽きさせないように、またあまりに深刻な雰囲気を和らげるためのコミカルな登場人物のことです。

 クラインは、美人に弱く、友情に篤いキャラ(かなり後の巻で美人のNPCになにかするためスキルポイント的な何かを盛大にぶっ込んで、主人公たちにドン引きされていた記憶があります)。

 エギルも、あくどい商人&厳つい人相に反して攻略組を支えていた生産職として1巻で描かれています。のちの巻では、彼の喫茶店(酒場)が主人公たちの溜まり場になっていますから、キーキャラクターであることは間違いありません。

 序盤で本敵を登場させるのは必須なので茅場晶彦ヒースクリフ)の15p登場は妥当な登場でしょう。

 

 話がそれました。

 主人公のキリトについて。

 前回考察のストライク・ザ・ブラッドでは、「明確な目的を持ち、物語を動かしていく人物」。そして、「物語のはじめに追い詰められた状況あるいは苦境・逆境に立たされている人物」が主人公であると書きました。

 では、キリトはどうでしょう?

 

「物語のはじめに追い詰められた状況あるいは苦境・逆境に立たされている人物」

 

 これは、ゲームの中に取り込まれた系作品において容易に達成できる条件です。

 異世界転生系と言い換えてもいいかもしれません。

 前述のログホライズン、リアデイルの大地にて他、転生したらスライムだった件、蜘蛛ですがなにか、オーバーロード、ありふれた職業で世界最強、デスマーチからはじまる異世界狂想曲スマートフォンとともに、ゲート、戦国自衛隊、JIN、ゼロの使い魔(読んでませんが)、火魅子伝etc...

 別世界に取り込まれてしまった時点で、主人公(たち)は<追い詰められた><苦境><逆境>に立たされています。

 主人公がチートで、最強の能力をもっているから<追い詰められ>ても<苦境>でも<逆境>でもなくね? と思うかもしれませんが、それは違います。

 分かりやすいたとえが、戦国自衛隊とJINでしょう。

 戦国自衛隊は、自衛隊が過去(戦国時代)にタイプスリップしてしまう作品です。小銃や戦車VS火縄銃や騎馬。どちらが勝つかは目に見えています・・・が、序盤で自衛官が死んでいます(たしか)。最強の武器や兵器があっても異世界という環境によって人間は簡単に死んでしまう。殺されてしまうのです。

 JINは現代の医者が過去(江戸時代・・・たぶん)にタイプスリップしてしまう作品です。医学知識や外科技術があっても、医者の武器である機材や薬がないので助けられる人間も助けられません。これも異世界という環境による効果です。

 

 ソードアートオンラインのキリトは、VRMMOの中に取り込まれ、HPが0になったら現実世界の身体も死亡。脱出するには最上階にいるラスボスを倒さなければならないという、かなりハードな状況に立たされています。

 よって、「物語のはじめに追い詰められた状況あるいは苦境・逆境に立たされている人物」はクリアされているでしょう。

 

 次に「明確な目的を持ち、物語を動かしていく人物」ですが、これを二番目に回した理由には訳がありまして・・・。

 前回書いたストライク・ザ・ブラッドと同じように、実はキリトが明確に<目的>をもったは物語の終盤なんですよね・・・。

 

 ただ、56pデスゲーム開始直後に下記のようなエピソードがあります。

 

 

 俺はもう、当分の間――数ヵ月、あるいはそれ以上、現実世界には戻れない。母親や妹の顔を見ることも、会話することもできない。ひょっとしたらその時は永遠に来ないかもしれない。この世界で死ねば――

 俺は本当に死ぬのだ。

(中略)

「いいか、よく聞け。俺はすぐにこの町を出て、次の村に向かう。お前も一緒に来い」

(中略)

「いや・・・、おめぇにはこれ以上世話になるわけにゃいかねえよな。俺だって(中楽)おめぇは気にしてねぇで、次の村に行ってくれ」

「・・・・・・」

 黙り込んだまま、俺は数秒間、かつて覚えがないほど激烈な葛藤に見舞われた。

 

 

 そしてキリトは、フレンドになったクラインを見捨てて、一人で次の村へと向かいます。

 キリトは明確な言葉として「クリアするんだ!」とは言っていません。しかし、次の村に向かうという、ゲームクリアを目的とした明確な行動をとっています。

 対照的にほかのモブキャラクターは

 

 

 悲鳴。怒号。絶望。罵声。懇願。そして方向。

 たった数十分でゲームプレーヤから囚人へと変えられてしまった仁玄たちは、頭を抱えてうずくまり、両手を突き上げ、抱き合い、あるいは罵り合った。

 

 と書かれています。

 ほかのプレイヤーが行動に移さない中、キリトだけが行動に移ったような描写(ちなみに、どこかのサイドストーリーでは、同様に行動に移ったプレイヤーとキリトのエピソードが書かれています)。

 この対比がキリトを「明確な目的を持ち、物語を動かしていく人物」とさせ、主人公たらしめています。

 

 しかし、その後のキリトは明確に<目的>を示していません。

 超レアアイテムの食材をGETしてひゃっはーしたり、アスナとイチャイチャしているせいで嫉妬に狂った敵に殺されかけたり、アスナと新婚生活を楽しんだり、アインクラッドで最高の季節の、さらに最高の気象設定の中で昼寝を決め込んでみたり・・・まったく脱出する意欲を見せてくれていないからです。

 

 そして、キリトが言葉で明確に<目的>を表明したのはp268/328pのド終盤。

 序盤56pのあのエピソードだけで、ここまで引っ張れる作者の技量に畏敬の念を禁じえません。

 なぜ、ここまで主人公の<目的>が明確化されていない中、読者を飽きさせずにこれたのかは、次の考察で検証します。

 

 さて、ド終盤のエピソードはこちら。

 階層ボスに向かうため招集がかかった時のこと。

 キリトが、「このゲームの世界でアスナと一緒に暮らしたい」と弱音を吐いたとき、アスナが言います。「向こうの世界の身体もいつまでも生きていられるとは限らない」と。

 そこでキリトは「だから・・・今は戦わなきゃいけないんだな・・・」と、アスナと現実世界に戻ろうと決意するのです。

 ヒロインについての考察はしていませんでしたが、主人公の背中を押して戦いに向かわせる。決意を固めさせる。そのような役割があるのでしょう。

 アスナの言葉がなければ、キリトは<目的>への決意を決められなかったはずです。

 前回のストライク・ザ・ブラッドとも姫柊雪菜の背中を押す一言がなければ、暁古城は敵へと立ち向かっていませんでした。

 

 主人公が自己完結的に「おっしゃあ! 敵ぶっ殺す!」となるのではなく、ヒロインが関わって、「おっしゃあ! 敵ぶっ殺す!」となるのが良い物語なのでしょう。

 凡人の私には上手いたとえが浮かびませんが。

ヒロイン「敵を倒さないと私たちは幸せになれないの!」

主人公「OK。なら敵を倒すぜ!」

 みたいな感じでしょうか。

 このあたりは、今後考察していく作品にも取り込んでみようと思います。

 

 

 さて、次回はストーリー構成です。

 序盤と終盤以外はのんびり異世界ストーリーライフを送っていた主人公。それなのになぜ読者はページを捲るのかを考察していきたいと思います。