【小説・考察】ストライク・ザ・ブラッド1巻の構成を考察してみた① 主人公は誰?
願わくは、皆様の創作活動の一助となりますように。
この記事は、ストーリー考察ではなく、ストーリー“構成”の考察です。
キャラクターの関係性や世界観、魔法や呪術、設定等の考察ではありません。
ストーリー構成を紐解き、起承転結や伏線、その回収、キャラクターの役割などを分析し、オリジナル作品を作るためのヒントにするための考察となっております。
が、私はプロではありません。ド素人が個人的に好き勝手言っていると生暖かい目で見ていただけると助かります。
さて、第一回目のストーリー考察は、電撃文庫より出版されている三雲岳斗著『ストライク・ザ・ブラッド』です。全24巻(本編22巻+番外編2巻)完結済みの作品です。2013年10月にアニメ化もされていますね。
この作品の胸を借りて勉強させてもらおうと思います。
ストライク・ザ・ブラッドをご存じではない方もいると思うので、まずは概要から。
・・・注意点。ネラバレ含みます。ネタバレが嫌いな方はそのままウィンドウを閉じてください。
ご理解いただいた方のみ、記事を読み進めていってください。
「主人公がヒロインと共闘して敵をぶっ倒す話」
簡潔にまとめてみました。
では、ストライク・ザ・ブラッドにおける主人公とは誰でしょうか?
公式サイトで紹介されているキャラクターを箇条書きにしてみました。
・暁古城
・姫柊雪菜
・暁凪沙
・矢瀬基樹
・藍羽浅葱
・南宮那月
・オイスタッハ
・アスタルテ
辞書ではこうあります
「事件や小説・劇などの中心人物。ヒーローまたはヒロイン」
なるほど。
では、物書きの視点からはいかがでしょうか。
色々とあると思いますが、私は「明確な目的を持ち、物語を動かしていく人物」。そして、「物語のはじめに追い詰められた状況あるいは苦境・逆境に立たされている人物」だと思っています。
漫画の有名どころで言えば、NARUTO。ナルトは、忍術が使えない落ちこぼれで、村を襲った九尾の狐だとされ、嫌われています。めちゃくちゃ追い詰められていますし、苦境で逆境な状況に立たされていますが、ナルトは村一番の忍である火影になると明確な目的を持っています。
もちろん、サイドストーリー等でサスケやサクラたちが主人公として活躍する作品も多々ありますが、メインストーリーにおいてナルトは間違いなく主人公です。
では、なぜ物書きにとって「明確な目的を持ち、物語を動かしていく人物」。そして、「物語のはじめに追い詰められた状況あるいは苦境・逆境に立たされている人物」が主人公なのか。
それは、この二つの条件が揃わないと筆が進まないからです。
マジで途中で止まります。
主人公が動かなくなります。
話が進まなくなります。
なぜなのか。
自問自答していくと、私は決まって一つの結論に行きつきます。
それは、自らの作品の主人公が「明確な目的を持ち、物語を動かしていく人物」としてストーリーに組み込まれておらず、「物語のはじめに追い詰められた状況あるいは苦境・逆境に立たされている人物」として、構成されていなかったから、です。
では、話を元に戻し、実際の商業作品に照らし合わせて考えてみましょう。
ストライク・ザ・ブラッドの主人公は誰か。
この場合の主人公とは辞書的な意味ではなく、「明確な目的を持ち、物語を動かしていく人物」、「物語のはじめに追い詰められた状況あるいは苦境・逆境に立たされている人物」です。
まぁ、普通に考えて・・・
・暁古城
・姫柊雪菜
この二人でしょう。
そして、読者の大半が男性であることを考えると、暁古城が主人公と考えるのが妥当です。
ここで姫柊雪菜が主人公だ! と思った方。さすがです。
私も姫柊雪菜こそが主人公であると確信しております。
それはなぜなのかを説明するため、稚拙ではありますが独自にあらすじを書いてみました。
暁古城は、太平洋に浮かんだ人工島に住むごく普通の高校生だったが、ある事件をきっかけに世界最強の吸血鬼となってしまう。
吸血鬼となってしまったあともごく普通の高校生活を送っていたところ、世界最強の吸血鬼の存在を危険視する組織Aから監視役(姫柊雪菜)が派遣される。さらに監視役には、暁古城が危険人物だと判明した際に抹殺できるよう強力な武器が貸与されていた。
姫柊雪菜は暁古城と同じ学園の中等部に編入し、居住先も隣室に引っ越してくるという徹底ぶりで監視をおこなっていく。
数日が経ったある日、暁古城と姫柊雪菜は敵と敵の先兵が住民の魔族と戦闘している場面に遭遇し、襲われていた魔族を救出する。
しかし、救出の際に暁古城の吸血鬼の力が暴走してしまい、戦場となった場所は大破壊されてしまった。
世間では謎の大破壊事件として報道され、修復費用は数億。もし犯人が暁古城とだと判明すれば、犯罪者となるばかりではなく、巨額の損害賠償を請求されてしまう。
組織Bは、この事件を最近多発している魔族連続襲撃事件と関連性があるとみて捜査をしているらしい。暁古城は組織Bよりも早く敵を見つけて確保する必要があった。
藍羽浅葱の能力を使い、敵の潜伏先を推測し、暁古城と姫柊雪菜が乗り込んでいく。
そこには敵と敵の先兵が潜んでおり、戦闘に発展。
敵の先兵は、先日の戦闘データをもとにパワーアップしていて苦戦を強いられる。
パワーアップの原因となったのが姫柊雪菜の武器であることが発覚し、姫柊雪菜は衝撃を受けるとともに致命的な隙を見せてしまう。敵の先兵の凶刃が襲い掛かろうとしたとき、暁古城が身を挺して姫柊雪菜を庇うも、致命傷を負ってしまう。
暁古城と姫柊雪菜を無力化した敵は、目的地へと向かっていくが、そこにはバイト中の藍羽浅葱がいた。
藍羽浅葱のバイトとは、人工島の管理業務の委託であった。
人工島は島に住む人たちの生命線であり、何十もの防衛機構を備えている。容易く敗れるものではないが、敵は姫柊雪菜から得た戦闘データから得た力で易々と防衛機構を突破し、組織Bの警備を蹴散らしていく。
目を覚ました暁古城は敵の目的地を知り、そこでバイトしている藍羽浅葱のことを思い出す。心配して連絡を取ると、藍羽浅葱は敵と接触しており、図らずとも敵の居場所を知ることとなる。
そして、藍羽浅葱の能力を使い、敵の目的が判明。
姫柊雪菜は正義感から敵の目的を阻止しようと行動しようとするが、暁古城は敵の目的が敵の正義に基づく行動であると知り、躊躇してしまう。
姫柊雪菜は暁古城の葛藤に気づき、自らの血を差し出すことで暁古城の背中を後押しする。
暁古城と姫柊雪菜は、敵の目的が達成する直前で間に合い、対峙する。
暁古城の正義と敵の正義がぶつかり、言葉では分かり合えないと知り、そこで初めて暁古城が明確に敵と戦うことを決意。
「ここから先は、オレのケンカだ!」
「いいえ、先輩。わたしたちのケンカ、です――!」
三目の戦闘の幕が切って落とされる。
姫柊雪菜が差し出した血によって暁古城の吸血鬼としての能力が目覚め、敵と渡り合うも、やはり敵は強大だった。
吸血鬼の能力を使っても決定打になりえない。
しかし、姫柊雪菜の一撃が勝負を決める。
「いいえ、先輩。このたたかいは、わたしたちの勝ちですよ」
暁古城と姫柊雪菜は共闘し、敵をぶっ倒して終了。
エピローグは次巻へと続く伏線的なものなので端折ります。
さて、お気づきでしょうか。
暁古城が明確な目的を持ったのは、なんと最後の戦闘の直前、260p/297pなんです。
一応、巨額の損害賠償を払いたくないから、という仮の目的が中盤162p/297pで設けられていますが、出てくるタイミングが遅すぎますし、動機としてはめちゃくちゃ弱い。
物語の基本として、主人公の目的、敵、そして障害は序盤で読者に明示されなくてはなりません。
そして、主人公は「明確な目的を持ち、物語を動かしていく人物」、「物語のはじめに追い詰められた状況あるいは苦境・逆境に立たされている人物」でなければならないのです。
なぜ、「物語のはじめに追い詰められた状況あるいは苦境・逆境に立たされている人物」か。
逆にすべてが上手くいっている状況を読んで読者は楽しいのか? ということです。
ポルノグラフィティは歌っています。
「最初からハッピーエンドの映画なんて3分あれば終わっちゃうだろ?」
物語も同じです。
そして、バトルもののお約束として、最後の一撃は主人公が必殺技で倒さなければならないという鉄則があります。
NARUTOでは、ナルトが敵を影分身の術という必殺技でぶっ倒しています。
しかし、ストライク・ザ・ブラッド1巻で敵を倒したのは、姫柊雪菜の必殺技です。暁古城はアシストに回っています。
ワンピースでも親玉を倒すのは、ルフィです。
ソードアートオンラインでもラスボスを倒すのは、キリトです。
ストライク・ザ・ブラッドの主人公は、残念ながらアシストしかしていません。
つまり、最後の一撃の鉄則からすると、主人公は暁古城ではなく、姫柊雪菜です。
そして、姫柊雪菜は序盤25pで世界最強の監視役に任命されています。
支度金として一千万円を渡されていて、「いつ死んでも悔いが残らないようにしておけと経理のおばさまに言われた」そうですから、どれだけヤバい任務なのかが分かります。
さらに、危険な存在だと判断した場合、抹殺するよう命じられ、明確な目的を持たされています。
暁古城よりも姫柊雪菜のほうが「物語のはじめに追い詰められた状況あるいは苦境・逆境に立たされている人物」であることが分かります。
この二点からも暁古城ではなく、姫柊雪菜が主人公であるとお分かりになると思いますが、もう一つの根拠を上げます。
物語というのは、主人公の成長物語です。
NARUTOでは、最弱だったナルトが最強の忍にまで成長しています。
では、暁古城はというと・・・微妙ですね。
逆に姫柊雪菜は明確に成長しています。
あらすじでは端折りましたが、一回目と二回目の敵との戦闘の直前、ヒロインは主人公がついてこようとするのを止めています。
しかし、三回目の戦闘では、主人公が付いてくるのが当たり前のように「行きましょう先輩」と声をかけています。
最初はを選んでいたのに、最後はBを選んだ。これが成長です。
一方、暁古城は「俺やヒロインが行ってどうすんだ・・・?」と情けないことをほざいています。
そして、暁古城と出会った直後の姫柊雪菜ならば、自ら進んで血を差し出すようなことはしなかったでしょう。
以上の三点から姫柊雪菜が主人公であることが判明しました。
まぁ・・・こんなことをしなくても分かり切ったことではあったんですけどね・・・。
だって全巻の表紙がすべてヒロインなんですもん。
では、なぜこんな長々と主人公談義をしたかというと、「明確な目的を持ち、物語を動かしていく人物」だからです。
ストライク・ザ・ブラッドは、序盤こそ美少女が二人しか現れませんが、最終的に十二人+@の美少女を侍らせるハーレムもの?です。
そのハーレムの中心人物=主人公ではない、というのが重要。
繰り返しになりますが、主人公は物語を動かしていく人物です。
いわば物語の心臓です。
これを意識してストーリーを構成しないと作品を書き上げられません。
さて、次回はその主人公(姫柊雪菜)を活躍させるためのストーリー構成を考察していきたいと思います。